電力自由化をきっかけに、地方自治体が電力会社を設立する動きが広がっています。地域内に設置している太陽光発電設備を利用して発電するなど、クリーンなエネルギーの地産地消や、地域活性化といったメリットもあるご当地電力。どんな取り組みがあるのでしょうか。

様々な自治体が電力会社を設立

朝日新聞によると、2016年3月時点で地方自治体が設立した電力会社数は全国で10社以上。供給先は公共施設や学校などがメインですが、中には地域内の一般家庭に供給しているところもあります。

その中から今回は、群馬県の中之条電力、福岡県のみやまスマートエネルギー、千葉県の成田香取エネルギーの事例をご紹介します。

全国初の自治体による電力会社、中之条電力

電力の地産地消を推進するため、中之条町と民間事業者が共同出資し、2013年8月27日に設立された中之条電力。中之条電力がある群馬県吾妻郡中之条町は、群馬県の北西部にある町。新潟県・長野県と隣接していて、自然豊かな町です。

町内のメガソーラーから電力を購入し、供給

中之条電力では、町内にある3か所の太陽光発電所から電気を調達しています。太陽光発電の特性上、天気が悪い日や夜間には発電できませんが、不足する場合などは卸電力取引所や共同出資者である(株)V-Powerなどから調達。このほか、水の流れを利用した小水力発電や木質バイオマス発電の利用も計画しているなど、再生可能エネルギーによって発電された電気をメインに取り扱っています。

太陽光発電などにより調達した電気は、役場や学校、観光施設など、町内にある30の公共施設へ供給。エネルギーの地産地消を、目に見える形で進めています。

2016年4月からは一般家庭へも供給開始

中之条電力では2016年4月の電力自由化をきっかけに、2015年11月に(株)中之条パワーを設立。中之条電力が行っていた電力供給などの事業を、現在は中之条パワーが引き継いで行っています。

中之条パワーが提供している料金プランは、東京電力が提供する料金と同じです。東京電力と違うのは、中之条町民であれば電気料金が1%割引になる点。地域住民にメリットがあるというのは、自治体が設立した電力会社ならではです。

売電事業も行う、みやまスマートエネルギー

みやまスマートエネルギー(株)は、福岡県みやま市、筑邦銀行、九州スマートコミュニティの出資により設立されました。電力の販売事業だけでなく、一般家庭からの太陽光発電の買取事業も行っています。

電気の地産地消の取組み

これまで、一般家庭の太陽光発電で発電した電気は、地域電力会社(みやま市の場合は九州電力)へ売電するのが通常でした。みやまスマートエネルギーでは、この売電事業も実施。九州電力へ売電するのに比べ、1kWhあたり1円(税込)高い価格で買い取っています。

地域内にある一般家庭からの買取事業を行うことで、電気の地産地消をより一層進められる取組みです。

電気もお得に利用できる

みやまスマートエネルギーでは、九州電力による従来の料金プランと比較して約3%お得になる料金プランを提供しています。

その他にも自治体による電力会社ということで、中之条パワー同様、地域住民に嬉しい割引も。例えば、みやま市の水道料金とまとめて支払うと、電気料金の基本料金が割引になります。公共料金とのセット割は、自治体ならではです。

今後も、消費者の暮らしに合ったセットプランの提供が計画されています。

2市が共同で設立、成田香取エネルギー

(株)成田香取エネルギーは、2016年7月5日に設立されたばかりの電力会社です。

自治体と民間の共同出資によって設立、電気の地産地消といった部分は中之条電力や、みやまスマートエネルギーと同様。他と異なるのは、成田市と香取市の2つの市が共同で電力会社を設立した点です。2つの市が共同で会社を設立するのは、全国でも初めての事例です。

成田市・香取市と共同で出資、事業運営を行う民間企業は、神戸市に本社を置く(株)洸陽電機。こちらはプロポーザルで採択された企業です。

2市の公共施設へ電気を供給予定

成田香取エネルギーでは、成田市の清掃工場と、香取市の太陽光発電所から電気を調達する予定。調達した電気は、成田・香取両市の公共施設へ供給する予定です。地域内で発電した電気を調達し、地域内の公共施設へ供給する。電気の地産地消ですね。

なお、成田香取エネルギーによる公共施設への電力供給は、2016年10月からスタートする見込み。一般家庭への供給は、現時点では予定されていません。

ご当地電力のメリット・デメリット

国内で少しずつ増えているご当地電力。メリットやデメリットには、どんな点があるのでしょうか。

ご当地電力のメリット

ご当地電力のメリットとしては、地域活性化や雇用の創出といった経済的な面が挙げられます。

電力会社が地域内にあるということは、そこに働く場があるということ。働く場があれば町から出ていく人も減り、人口流出に歯止めをかけることができます。

発電所が同じ市内・町内にあることで、災害時の大規模停電などを回避出来たり、送電ロスを少なくすることも可能。その地域ならではのサービスを提供したりと、住民の暮らしに合わせたサービスを提供できるといったメリットもあります。

ご当地電力のデメリット

現時点で、明確なデメリットとは言えないかもしれませんが、今後注意したい点はあります。それは、事業として成り立つかどうかという点です。

電気は暮らしに必要不可欠なライフラインで、公共性も高いもの。だからといって、赤字でもいいというわけではありません。地域活性化なども、きちんと利益が出て仕組みができているからこそのもの。

目的先行で事業を行うのではなく、きちんとした計画のうえで事業を進めることが大切です。

地域密着型のサービスに期待

ご当地電力の強みとして、その地域ならではの密着型のサービスが提供できるという点があります。みやまスマートエネルギーの提供する水道とのセット割などは、ご当地電力ならでは。私たちにとっても、住んでいる地域がよりよくなることは嬉しいことですよね。

地域のことを知り尽くした自治体だからこそ、大手電力会社ができない「痒い所に手が届く」ようなサービスに期待したいところです。