電力自由化は私たちにとって、必ずしもメリットだらけというわけではありません。思わぬトラブルに巻き込まれたり、場合によっては悪質な詐欺の被害に遭う可能性も。怪しい業者を見分けるために、最低限の知識が必要です。
私たち消費者を保護するために、電力会社に課せられた義務など、最低限必要な知識を分かりやすくまとめました。
目次
0. まず本当に電力会社の人か確認する
まず初めに確認するのは、訪ねてきた人が本当に電力会社の人かどうかということ。
新電力のトラブルとして一番可能性が高いのは、電力会社を装った訪問詐欺。
そのためには、先ず身分証を掲示されるはずなのでそれを確認しましょう。
また、その場で現金を請求したりすることがあれば、いったん帰ってもらいましょう。
基本的に電力会社が、家に訪問して現金を請求することはありません。
この先は、訪問詐欺などではなく電力会社の小売事業者や販売代理店についての話です。
1. 電力会社がしないといけないこと
電力会社を管理しているのは経済産業省の中にある「資源エネルギー庁」というところです。資源エネルギー庁では、電力自由化で私たち消費者がトラブルに巻き込まれない様に、次のような事を電力会社に命じています。
1−1.料金など、契約条件の説明義務
説明すべき内容とは
経済産業省が2016年1月に発表した「電力の小売り営業に関する指針」では、事業者が説明すべき事項を定めています。
まず基礎的な情報として
- 事業者の名称や登録番号
- 苦情や問い合わせの受付先
- 代理店の連絡先
があります。これらは実際に契約をするかどうかに関わらず、説明する必要がある内容です。
契約を結ぼうとする供給内容についても説明する必要があります。具体的には
- 申込み方法
- 供給開始予定日
- 支払方法
- 電気料金(算定方法含む)
- その他必要な費用
- 解約時の連絡先
- 解約金等の有無
- 契約内容変更に関する条件の有無
- 期間限定の割引キャンペーンの内容
- 契約期間の定めがある場合はその期間
- 電気の使用方法などに制限がある場合はその内容
などを説明しなければなりません。
電源構成を目玉にしたような電気の販売(再生可能エネルギーの割合が高い、等)を行う場合は、その内容や根拠なども説明内容に含まれます。
セット割がある場合
電力自由化で気になるものといえば、各種サービスとのセット割がありますよね。私たち消費者にとっても魅力的なセット割ですが、知らない間に他の商品やサービスを契約させられていたり、広告通りのキャッシュバックが支払われないといった問題が生じる可能性も。こういった問題を防ぐためにも、セット割などがある場合は割引内容に関した説明をする必要があります。
例えば、電気の販売を行う事業者とセット割の対象となるサービスや商品の提供元が異なる業者の場合、その旨をきちんと説明すること。また、割引対象となるサービス等を解約した場合にどうなるか(割引の適用がなくなってしまうのか)、というのも大切な情報です。
さらにキャッシュバックがある場合は、どのような手続きを経て、どこがキャッシュバックを行うのかも説明が必要。
契約締結前後に交付する書面には、これらの内容を記載することも求められています。
説明義務に違反したらどうなる?
事業者が説明義務に違反した場合、業務改善命令が発動される可能性があります。この業務改善命令に違反した場合は300万円以下の罰金の対象となったり、小売事業者としての登録を取消される可能性もあります。
電気の販売など、電力事業に関することは「電気事業法」という法律に定められています。
この電気事業法では小売事業者に対して電気の販売を行う際、料金や供給条件について需要家(電気を利用する人、つまり、私たち消費者)に説明することを義務付けています(電気事業法第2条の13第1項)。
実は、電気を販売する小売電気事業者は、登録さえ受ければ誰でも事業者になることが可能。その一方で、電気は私たちの暮らしに欠かせないものでもあります。
暮らしに欠かせないものだからこそ、料金や供給条件に関する説明が十分に行われないことによるトラブルを防ぐことはとても大切なことなんですね。私たち消費者にとっても、料金などの内容を十分に理解したうえで電気を利用する環境が整うことは、嬉しいことでもあります。
なお、事業者はただ説明をすればいいというわけではありません。私たち消費者が、その内容を十分に理解し、判断できるように説明することが重要です。そのためにも、口頭や電話での説明だけなく、インターネット上でその情報が閲覧できるようにするといった方法もあります。
1−2.書面の交付義務
小売事業者には説明義務だけでなく、私たち消費者に対して料金や供給条件を記載した「契約締結前交付書面」を交付する義務があります(電気事業法第2条の13第2項および第3項)。さらに、契約を結んだあと、事業者はすみやかに氏名や所在地、契約締結日、料金や供給条件を記載した「契約締結後交付書面」を交付しなければなりません(電気事業法第2条の14)。
この書面交付義務も説明義務同様、契約内容の説明不足によるトラブルを防ぎ、判断できるようにするためのもの。書面に記載するべき内容は、説明すべき内容と同様です。
なお、書面に記載する場合は文字の大きさを工夫するなど、読みやすくすることが望ましいとされています。
書面交付義務に違反した場合、説明義務に違反したときと同様に業務改善命令が発動されたり、300万円以下の罰金や登録取消といった処罰の対象となります。
1−3.苦情・問い合わせを適切に処理する義務
苦情や問い合わせを適切に処理する義務についても、電気事業法で定められています(電気事業法第2条の15)。
苦情や問い合わせの対応窓口連絡先は、料金や供給条件を説明する際に説明する必要があります。
また、私たち消費者がいつでも確認できるよう、ホームページなどに記載しておくことが求められています。
1−4.事業休廃止時の周知義務
小売事業者が電気の小売事業を休止したり廃止したりする際には、あらかじめその旨を周知しなければなりません(電気事業法第2条の8第3項)。
具体的には、
- 供給契約の解除を行う15日程度前までに解除日を明示し、解除予告通知を行うこと。
- 解除予告通知を行う際には、電気の供給が止まることや地域電力会社へ申込む方法があること
などを説明しなければならないとされています。
事業休止や廃止等により小売事業者の方から契約を解除する場合、事前の周知がなければ私たちは電気を使えなくなってしまう可能性も。こういった事態を防ぐためにも、小売事業者には周知義務が課せられています。
2. 電力市場の取引を監視する電力・ガス取引監視等委員会
電力自由化のスタートに伴い、2015年9月に「電力・ガス取引監視等委員会」が新設されました。
この委員会の主な業務は、電力取引の適切な監視や事業者に対する業務改善勧告、大臣への意見具申など。外部有識者5名を委員とする、これまでにない強い権限を持った委員会です。
監視・規制する組織といっても、メンバーの中に同業者がいては監視の目もゆるくなりがち。新たに設立された電力・ガス取引監視等委員会は高度な専門性を持ち、監視・規制の対象者である電気事業者から独立することで、対象者に対して対等な立場で接することができる特徴があります。
電力・ガス取引等監視委員会では取引を監視し、問題があれば勧告したり、国への報告も。報告を受けた国は業務改善命令を発動したり、改善されない場合は罰則の適用や登録取消といった措置を講じます。
また、電力・ガス取引等監視委員会では相談窓口も設置。電話やメールで相談を受けて付けています。何だかおかしいな、と感じたりトラブルに巻き込まれそうになったときは、遠慮せずに相談することをオススメします。
電力ガス取引等監視委員会
http://www.emsc.meti.go.jp/
相談窓口
TEL:03-3501-5725 (直通)
(受付時間 9:30-12:00、13:00-18:30)
3. トラブル防止には、理解・納得して契約すること
ここまで見てきたとおり、電力自由化に伴うトラブルを防止するため、法律から監視する組織の設立など、さまざまな対応策が講じられています。小売事業者や代理店はこのルールを守って事業を実施しており、今のところ特に大きなトラブルは報告されていません。しかし、営業が過熱した場合、もしかしたら一部の販売代理店が、行き過ぎた営業をするケースも十分に考えられる話。
そういった事業者によってトラブルに巻き込まれる前に、契約する際には料金プランや割引条件などを十分に理解し、納得してから契約するようにしましょう。