「発送電分離」という言葉、なんとなく聞いた事があるかもしれませんが、正確にはどういうことでしょうか?

電力自由化が成功するかどうかにも関わってくる、発送電分離。どんな仕組みで、なぜ実施するのでしょうか。

発電と送電を切り離す発送電分離

日本では、昭和25年の電気事業再編成令・公益事業例の公布により、発電から送電・配電までを1つの会社で行う発送電一貫体制が確立されました。

このときに、戦前からあった9つの配電会社を、地域独占の電気事業者として再編。この9つの電気事業者こそが、現在の東京電力や関西電力などの地域電力会社(沖縄電力は除く)です。

以来60年以上の長きにわたって、発送電一貫体制が続いていました。

発電所で発電した電気を消費者へ届けるためには、送配電設備が必要です。しかし、この設備を一から作っていては巨額の資金と時間が必要になってしまいます。そのため発電と送電を切り離し、どの事業者も送配電設備を公平に利用できるようにするのが、発送電分離の目指すところ。

発送電分離により、新規事業者が電力事業に参入しやすくなるんです。

送配電の分離イメージ

法的分離によって発送電分離を実施予定

発送電分離にはいくつかの方法がありますが、今回日本で実施される可能性が高いのは「法的分離」という方法です。

これは、既存の電力会社から送配電部門を分社化してグループ会社にすることで、法的に経営を分離。送配電部門の中立性を確保するという方法です。

フランスでは2004年のEDF・GDF株式会社法で、国有事業者だったEDF(フランス電力公社)にこの法的分離の手法が取られています。

メリット

法的分離では、地域電力会社の送配電部門を分社化するということで、送電網が電力会社から独立していることが誰の目から見ても明確です。

また既に設備を所有している送配電部門が運用するので、設備開発や保守・運用を一体的に行えるという点も、法的分離のメリットとして挙げられます。

デメリット

発送電分離では、いかに送配電部門の中立性を保てるかが重要になってきます。法的分離では送配電部門を分社化するものの、資本関係を残すことが認められるため、グループ会社としての関係性は残ります。同じグループ内の発電・小売会社が有利になるような扱いを受ける可能性も、ゼロではありません。

こういった可能性を排除し中立性を確保するためにも、しっかりとしたルール作りが必要になってきます。例えば、発電・小売会社の社員と送配電会社の社員の兼務を禁止する、親会社から送配電会社への出向や転籍を禁止するといったものです。そのほか、国による何らかの形での監視も必要になってくると考えられます。

法的分離以外の発送電分離のやり方は?

今回採用される見込みの「法的分離」以外には、どんな方法があるのでしょうか。

日本でも2003年から実施されている会計分離

会計分離は、送配電部門と発電・小売部門の会計を分ける方法です。会計が別なので、送配電部門が黒字だったとしても、他の発電・小売部門の赤字を補てんすることはできません。

実はこの会計分離、部分的な電力自由化を受けて日本でも2003年から導入されています。中立性を保つために会計を分ける以外に、情報の目的外利用を禁止するといった「行動規制」も課しています。

会計分離を行っていながら今後は法的分離が採用されるということは、会計分離による中立化が十分ではなかったということでしょう。

アメリカで採用されている機能分離

機能分離は、送配電設備の所有権は電力会社に残したまま、設備の運用のみを第三者機関に任せる方法。設備の運用は、中立的な立場にある独立系統運用期間(ISO)が行います。所有権こそ電力会社に残りますが、運用はISOが行うため、中立性は確保されるものと考えられています。

その一方で、ISOは設備を保有しているわけではないため、所有者である電力会社とISOの間で余計な調整コストがかかる可能性も。送配電設備の維持管理や新規設置に必要な設備投資が上手く行われないという懸念もあります。

この機能分離はアメリカで採用されている手法です。

イギリスやドイツの一部で実施されている所有権分離

所有権分離は電力会社から送配電部門を切り離し分社化するだけでなく、資本関係も認めない方法です。資本関係が認められないということは、発電・小売部門から完全に独立した送配電会社になるということ。中立性という観点からは、最も良い方法と考えられています。

なお、法的分離と所有権分離の違いは、資本関係の有無にあります。この所有権分離の手法をとっている国としては、イギリスやドイツの一部地域が挙げられます。

2020年に実施予定の発送電分離

2016年4月に電力自由化はスタートしましたが、発送電分離についてはまだ実施されていません。現時点では、送配電設備は従来通り地域電力会社が管理することとなっています。

なぜすぐに実施しないの?と思われるかもしれませんが、発送電分離に向けた国と電力会社による準備には相当な時間がかかります。国による準備としては、システムの開発やより一層の中立性を保つためのルール作りが必要。電力会社にしても従業員の転籍や処遇の見直しといった労使間の調整、分社に伴う事業所の移転やシステムの分離など、多くの時間を要することが見込まれています。

そのための準備期間も含め、発送電分離は2020年に実施される予定です。

実施に向けて慎重な議論と準備が必要になる

発送電分離を一体何のために行うのか?と聞かれると、最終的な目的は電気料金を下げ、私たち消費者の利益を向上させるためと言えるでしょう。しかし、海外の先行事例を見ても、必ずしも電気料金が下がるとは限りません。

例えば、これまでなかった場所に発電設備が設置されると、送配電設備も新設する必要が出てきます。これにより、新たな設備を設置したり運用するためのコストが余計にかかる、ということも十分あり得る話です。

また、発送電分離が実施されたところで、私たち消費者にとって目に見える変化はほとんどありません。そのため、メリットを感じにくいどころか、分社化による連携不足などで停電が起きたり復旧が遅れるのでは?という不安も残ります。

発送電分離をより効果的に、かつ、私たち消費者がこれまで通り安定して電気を利用できるよう、2020年の本格実施までより慎重に議論・準備していくことが求められています。

とりあえず、私たちにできることは今一番よさそうな新電力へ乗り換えること。また解約が自由にできる環境で、刻々と変わる新電力の中で一番良い会社を選択することでしょう。

こちらも参考に⇒【決定版】新電力の選び方