ネガワット取引は、電力自由化に続く電力システム改革の取り組みとして、現在、法整備が進められているもの。あまり耳馴れない言葉かもしれませんが、2017年4月から導入されたネガワット取引。一体、どんなものなのでしょう。
目次
需要と供給のバランスが難しい電気
同時同量で調整
電気は、余分に発電して貯めておいて、必要な時に取り出すというような使い方ができないもの。逆に、足りなくなったから停電します、というわけにもいきません。常に需要と供給のバランスを一致させておく必要があるんですね。これを「同時同量」といいます。
電力会社では需要予測に応じて発電所を稼働するかどうか、どれだけ発電するかというのを細かく調整し、この同時同量を達成しています。
節電で需要もコントロール
例えば夏場の暑い時間帯に電力需要量が多くなり、電気が足りなくなったとします。この場合、
- 稼働する発電所を増やして供給力を増やすやり方
- 広く節電要請をして需要量を減らすやり方
の2通りが考えられますよね。
需要量の増加に合わせて発電所を増やすとなると費用もかかるうえ、無限に増やすことはできません。逆に節電をして需要量を減らせば、発電所の数はそのままでも、発電所を増設するのと同じ効果を得ることが可能。
そこでネガワット取引
ネガワット取引は電気を使う人たち(需要家)が電気の供給量に合わせて節電し、その節電量に応じて対価を支払うことをいいます。
また、電気の供給量に合わせて節電して消費量を抑えることを、ディマンドレスポンス(Demand Response・需要反応)といいます。DRと略されることもあります。
需要量抑制はこれまでも実施されている
節電によって電気の使用量を抑え、その抑制量に対して対価を支払うこと自体は、これまでにも行われていました。
これは工場やオフィスビルといった大口の需要家のうち、需給調整契約を締結している需要家に対して実施されていたもの。需給調整契約を結んでいる事業者は、工場などの操業を一時的に停止して電力消費を抑える見返りとして、電気料金の割引を受けることができる内容となっています。
経済産業省によると、ある地域電力会社では2011年3月に4回実施し、20万〜50万kW抑制したという実績があります。新電力(大口需要家向け)でも2013年の夏に25回実施、合計4.8万kW抑制しました。
今後は一般家庭も取引可能に
従来の需給調整契約による需要量抑制は対象が大口の需要家となっており、電力会社と大口需要家の二者間で実施されていました。
今後導入予定のネガワット取引では、小売電気事業者と需要家の間に「アグリゲーター」といった専門のネガワット業者が介在。大口需要家だけでなく、一般家庭も含めた多様な需要家が取引できるようになります。
ディマンドレスポンスについて
ディマンドレスポンスには、電気料金型とインセンティブ型の2通りのやり方があります。
電気料金型ディマンドレスポンス
電気料金型ディマンドレスポンスは、時間帯によって異なる電気料金を設定し、電力消費量を抑制する方法です。時間帯別料金やピーク時料金など、電力需要量が増える時間帯の電気料金を高くすることで、需要者に電気使用量の抑制を促します。
電気料金型DRは電気料金を設定するだけなので、比較的簡単に実施することが可能。多くの需要家に適用できるメリットがあります。
その一方で、電気代が高い時間帯でも特に気にせず利用するなど、その時々の需要家の反応によるため、効果が不確実というデメリットがあります。
インセンティブ型ディマンドレスポンス
インセンティブ型ディマンドレスポンスは、あらかじめ電力会社とピーク時に節電する契約を結ぶもの。契約を結んだ需要家は電力会社からの要請に応じて節電した場合、その節電量に応じて対価を得ることができます。
インセンティブ型の場合は契約によるもののため、確実な効果が得られるというメリットがあります。
その反面、各需要家と契約を結ぶ必要があるため、比較的手間がかかります。大多数の需要家に適用するのも難しいため、一般家庭などの小口需要家への適用が難しいというデメリットもあります。
取引開始に向けたガイドラインの策定
ネガワット取引は2017年4月から開始され、システムの開発やルールの策定などが進んでいます。
このうち、節電量をどのように算出するかというのは、ネガワット取引を行う上でも重要な点。経済産業省が策定しているガイドラインでは、節電量は節電要請がなかった場合の電力消費量(ベースライン)と、実際の電力消費量の差分とされています。
また、このベースラインを適切に算定するのも大切なこと。現時点では、直近5日のうち需要の多い4日(土曜・日曜・祝日は直近3日のうち2日)の平均を、標準ベースラインとする方向で検討中です。
さらに、ベースラインが適切かどうかをテストし(ベースラインテスト)、算定したベースラインと実際の電力消費量との誤差が20%以下であれば標準ベースラインを採用。誤差が20%を超える場合には、代替ベースラインを採用することとしています。
取引の最小単位は100kWになる見込み
現時点で、ネガワット取引の最小単位は100kWとなる見込み。やみくもに対象者を増やすと送配電事業者の電力供給に関するコストなどが増える可能性があるため、最小単位が設定されました。なお、100kWは30分ごとの電力量では50kWhに相当します。
節電が「善意」ではなく「ビジネス」になる
ネガワット取引の開始までに検討すべき課題は、まだいくつか残っています。
例えば、節電により需要家に対する電力供給量が減るということは、小売電気事業者にとっては電気料金による収入が減るということ。減った分をどういった形で補てんするのか、制度設計が必要です。
また、節電に応じた需要者に対し、小売電気事業者が契約内容を不当に変更したりすることがないよう、規律を求めることも必要。個人情報を扱うことにもなるため、情報漏洩を防ぐための対策なども必要になります。
課題はまだ多いですが、効率的で安定的な電力供給のためにも普及が期待されるネガワット取引。これまでは「善意」で行っていた節電が、対価を得られるということで「ビジネス」にもなる可能性大。
こちらのサイトには事例も紹介されています。
【参考】ディマンドリスポンス推進協議会
もちろん、私たちも取引の対象者となり得るわけなので、今後、注目しておきたいキーワードです。