jepx
発電事業者が発電した電気を売ったり、小売電気事業者が電気を買ったりと、電気の売買を行える場所。それが、卸電力取引所です。取引所の活性化は、電力自由化成功のカギを握るといっても過言ではありません。卸電力取引所って、どんなものなのでしょうか。

国内唯一の市場「日本卸電力取引所(JPEX)」

日本国内における卸電力取引所として挙げられるのが、日本卸電力取引所(JPEX)です。JPEXは国内唯一の卸電力取引所となっています。

JPEXでは、発電事業者が発電した電気を売ったり、小売電気事業者が電気を購入することが可能。例えば、気象条件に左右されやすい再生可能エネルギーメインで発電する新電力が、電力不足に陥った際に取引所を通じて電気を調達するといったことができます。

取引に参加するための条件

JPEXで取引するためには、JPEXの取引会員になる必要があります。2016年7月8日時点で、取引会員数は114社。東京電力や関西電力といった、いわゆる地域電力会社のほか、東京ガスなどの新電力が会員となっています。

取引会員になれるのは、実際に電気事業を行っている企業。売買が成立した電力は送電網を利用して届けられるため、送配電事業者との間で発電量調整供給契約または接続供給契約を結んでいる必要があります。純資産額が1,000万円以上であることも条件です。

JPEXにおける取引の種類

JPEXでは、4種類の方法で取引を行っています。このうち、主要な市場は一日前市場(スポット市場)と当日市場(時間前市場)の2種類です。

一日前市場(スポット市場)

電力を安定的に供給するには、発電事業者による発電計画量と小売電気事業者による供給計画量のバランスが取れている必要があります。発電・小売電気事業者とも、発電量や供給量がどれくらいになるかという計画を立てますが、長期計画からはじまり、最終的に1日前には翌日の30分ごとの発電計画と供給計画が確定します。

この1日前の計画を確定させる際の最終調整の場となるのが、一日前市場です。

発電事業者の場合は発電量(自社や契約する発電所によるもの)を計画し、売却先が決まっている量を確認して、一日前市場へ入札。発電量に比べて売却量が少なければ発電した電気が余るので売却、逆に発電量よりも売却量が多くなりそうであれば電気を調達することができます。

小売電気事業者の場合は、あらかじめ計画していた電力調達量と比べて供給量の方が上回りそうであれば市場から調達。調達量より供給量の方が下回りそうであれば、売却することができます。

一日前市場では、電気の価格は30分ごとに決まる仕組み。1日(24時間)を30分ごとに分割して取引するので、1日分だと48個の商品となっており、必要な時間帯についてのみ売買することができるようになっています。1日(48時間帯分)が1入札の単位となります。

取引電力の単位は、1MW(30分の電力量では500kWh)となっています。

当日市場(時間前市場)

1日前には翌日30分ごとの発電計画・供給計画が確定しますが、必ずしも計画通りにいくとは限りません。

例えば、夏の時期に予想していたよりも当日の気温が高くなった場合。このときは、エアコンなどを使用する人が増え、供給量の予想を超えてしまうことになりますよね。事故や災害などで発電所を稼働できず、予定していた量の発電をできなくなることだってあり得ます。

このように、1日前の計画が確定した後の調整の場となるのが、当日市場(時間前市場)です。

発電事業者は不測の事態によって発電できなくなり、計画していた発電量を達成できなくなってしまった場合、不足した分をここから調達することができます。逆に、予想していたよりも電力消費量が少なくなって、発電した電気が余ってしまう場合は売却することも可能です。

小売事業者の場合も同様で、電力消費量が計画より多くなる場合は当日市場で追加調達。計画よりも電力消費量が少なくなる場合は、余った分を当日市場で売却することもできます。

当日市場も一日前市場同様、電気の価格は30分ごとに決まります。一日前市場では1日分(48時間帯分)を一斉に計算しますが、当日市場では30分単位の商品ごとにザラバで取引する仕組み。なお、ザラバ取引とは、売りと買いの価格と数量が一致すれば、自動的に取引が成立する仕組みです。

当日市場での電力取引の単位は、0.1MW(30分電力量では50kWh)です。

先渡市場

JPEXにおける主要市場は一日前市場と当日市場ですが、そのほかに先渡市場と掲示板市場もあります。

一日前市場では30分ごとに価格が決まりますが、この変動する価格を事前に固定したい場合に利用されるのが、先渡市場です。1か月間や1週間分の価格を固定したい場合は、この先渡市場で取引します。

売る側と買う側の条件が一致しなければ取引は成立しないので、電気を安く買いたいと思っても売り手がいなければ取引は成立しません。

掲示板市場

掲示板市場は、自ら取引するには規模の小さな発電所などを持っている発電事業者が、電気を販売したい場合などに利用します。発電所の情報をJPEXに知らせると、JPEXが売却条件に合う企業を取引会員の中から探してくれる仕組みです。

JPEXにおける取引の現状

電気の取引ができるJPEXですが、取引の現状はどうなっているのでしょうか。

東京電力などのいわゆる地域電力会社は、発電所も多く保有しています。そのため、2014年度実績では全体のおよそ8割を自社の発電所から調達。JPEX経由での調達量は、わずか1%にとどまっています。

一方の新電力(販売電力量の9割を占める、上位13社)では、自社発電による調達はわずか4%程度。JPEX経由での調達量は1割程度となっています。新電力では、JPEXからの調達量が年々増加しています。

新電力では取引量が増加しているとはいえ、販売電力量全体で考えると、JPEXでの取引量は2014年度実績で2%未満。まだまだ少ないのが現状です。

市場が活性化することは私たちにもメリット大

JPEXは私たち消費者が直接電気を購入できるわけでもないので、関心を持つこともあまりないかもしれません。しかし、市場が活性化することは、私たちにとってもメリットの大きいことなんです。

市場での取引が活性化すると、発電事業者は効率的で価格競争力のある電気を発電しなければ、売り手がつきません。また、市場を通して電気を売ることは、多様な売り先に電気を販売できるということ。発電事業者間の競争が促進され、結果的に低廉で安定的な電力供給が可能になるわけです。

小売電気事業者でも電気の調達先が多様化。発電所のトラブルなので発電できなくなった場合の、価格変動を抑制することができます。これにより、小売電気事業者においても競争環境が整うというわけです。

こういった環境が整うことは、私たち消費者に対して魅力的な料金プランやサービスの提供にもつながります。2016年度計画では、大手電力会社を除いた小売電気事業者が、JPEXを通して2割の電力を調達することとされています。

今後、JPEXにおける取引がどこまで活発になるか、期待したいところです。