今や多くの専門店があり、人気も高いパンケーキ。

でも今回の「パンケーキ問題」は、そのパンケーキの話ではありません。電気だけでなく、都市ガスにも関係するパンケーキ問題。

どんな問題なのでしょうか。

料金がパンケーキのように積み重なる!?

電気や都市ガスに関係している、パンケーキ問題。エネルギーとパンケーキ、一体どんな関係があるの?と不思議に思うかもしれません。

そもそも、パンケーキと聞いてあなたはどんな形をイメージしますか?多くの人は、数枚のケーキが積み重なった形をイメージするのではないでしょうか。この形こそが「パンケーキ問題」と言われる所以でもあるのです。

「どこからでも買える」からこそ起こるパンケーキ問題

電力自由化以前の電気や都市ガスは、住んでいる場所によってその購入先が決められていました。東京都内に住んでいれば、電気は東京電力から、都市ガスは東京ガスからといった感じです。

電気については2000年から大規模な工場など一部について、自由化がスタート。これを機に、東京にある工場でも東京電力以外の電力会社から電気を購入できるようになりました。しかし、エリアが異なる地域から電気を供給する場合、供給エリアをまたぐたびに「振替供給料金」という料金が課せられていたのです。

例えば、1kWhあたりの電気料金が5円、1つの供給エリアをまたぐたびに振替供給料金として0.5円かかるとします。同じ供給エリア内にあるX工場とY工場があるとして、X工場は供給エリア内のA社から、Y工場は隣の供給エリアにあるB社から電気を調達。このとき、X工場は1kWhあたり5円で済みます。一方のY工場は、B社からA社へと供給エリアを1度またぐことになるので、1kWhあたり5.5円と割高になってしまうのです。

このように、一部で電力自由化が始まったものの、エリア外の電力会社を利用すると振替供給料金が積み重なることで、小売料金も高くなっていました。これでは、エリア外の電力会社から電気を購入しようという気にはなりませんよね。

供給エリアをまたぐたびに振替供給料金が積み重なることから、振替供給料金の問題のことをパンケーキの形に見立てて「パンケーキ問題」と呼んでいるのです。スイーツのパンケーキは美味しいですが、こちらの問題は私たち消費者にとっても美味しい話とは言えませんでした。

電気に関するパンケーキ問題は解消済み

小売自由化の阻害要因ともいえるパンケーキ問題ですが、実は電気に関してはすでに解消されています。一部で電力自由化がスタートした5年後の2005年、振替供給料金は廃止に。これにより、電源の所在地や供給場所に関係なく、より簡単に電気の供給ができるようになったのです。

振替供給料金は誰が負担しているの?

廃止前までは特定の利用者のみが負担していた、振替供給料金。電気を供給する新電力にとっても、大きな負担となっていました。

2005年以降は新電力ではなく、需要地にある電力会社が振替供給料金に相当する額を託送料金の中から回収する仕組みに。特定の利用者だけが負担するのではなく、供給エリア内の全利用者が均等に負担することになりました。

ところで「託送料金」って何?と疑問に思うかもしれません。託送料金とは、簡単に言うと送電網の利用料金のこと。エリアごとに料金単価は異なりますが、送電網を利用する際に支払うものなので、新電力だけでなく既存の大手電力会社も同じように支払います。新電力と大手電力会社で料金が異なる、なんてこともありません。

そして託送料金は電気料金にも含まれているので、結果的に「供給エリア内の全利用者が均等に負担」しているわけです。

都市ガスの場合はどうなっている?

このパンケーキ問題は、電気だけでなく都市ガスにも関係しています。

都市ガスは2017年4月から小売自由化がスタート。都市ガスは導管(ガス管)を利用して各需要家へ供給されるため、供給方法としては電気とよく似ています。都市ガスには電気のような振替供給料金という概念はありませんが、似たものに「卸託送料金」があります。

この卸託送料金は昔の振替供給料金同様、供給エリアをまたぐたびに料金が加算されます。都市ガス小売り自由化は、ガス小売り事業者間の競争を活性化することや、需要家(私たち消費者)の選択肢拡大によって、需要家の利益拡大を目的としています。そのため、都市ガスにおいてもパンケーキ問題は小売自由化の阻害要因と言えるわけです。

都市ガスのパンケーキ問題はなぜ解消されなかった?

電気同様、都市ガスも工場などの一部需要家に対しては、以前から自由化が始まっていました。それなのに、ガスについてのパンケーキ問題は解消されていません。

これは、ガスの供給区域が細かく分かれていて、電線ほどガス管の整備が進んでいないことが原因。電線は日本中に張り巡らされていますが、ガス管はLNG基地を中心に整備が進んできたため、東京−名古屋といった大都市間でも繋がっていないのです。

また、電気が不足した場合には他の供給エリアから融通することもできますが、ガスは基本的に、LNG基地から需要地に向けた一方通行。融通が限られているという認識から、パンケーキ問題は解消されてきませんでした。

パンケーキ問題解消に向けた動きとは

長い間放置されていた、都市ガスのパンケーキ問題。都市ガスの小売自由化を目前に控え、これを解消する動きも出てきています。

具体的には、特定の利用者が負担していた卸託送料金を一般負担化することで、パンケーキ問題を解消する方法。振替供給料金を供給エリア内の全利用者が均等に負担するのと同じ方法です。ただ、これについても注意すべき点があります。

現時点で、ガス会社Aがガス会社Bに対して卸供給を行っている場合。現時点では卸託送料金はB社が負担することになっているため、卸供給料金には既に卸託送料金に相当する額が含まれています。

しかし卸託送料金が一般負担化された後、B社は卸託送料金を負担する必要がなくなるため、卸託送料金相当額を値引きしなければなりません。値引きされないままだと、A社は卸託送料金相当額を二重取りしてしまうことに。

こうした事態にならないよう、国としてはガイドラインなどで卸託送料金相当額の値引きを求めることとしています。また、ガス会社には国に対して卸供給料金を報告する義務が課せられます。

都市ガスの小売自由化を前に、解消の見通しが立ったガスのパンケーキ問題。今後は2017年4月の自由化スタートに向けて、新規参入組を含めたガス会社の動向に注目です。