災害のイメージ
私たちの暮らしに欠かせない電気。だからこそ気になるのが、災害時の対応。これまでは東京電力などの地域電力会社が電気に関する全てのことを行っていましたが、電力自由化後はどうなるのでしょうか。

停電や復旧のタイミングはいままでと同じ

結論からいうと、大きな災害が起きてしまった場合、どこの電力会社と契約していても停電や復旧のタイミングには違いはありません。

ただし災害の影響でその後の経営が厳しくなる会社はあるかもしれません。災害にも比較的強いのは地域電力会社やガス会社。発電設備も多く、これまでの災害を乗り越えてきたノウハウもあります。

災害が起きたらどうなる?

では、実際に災害が起きてしまった場合、電力会社はどう動いてくれるのでしょうか。

発電所が被災した場合

広範囲に甚大な被害が出るような大災害が起こると、被災地にある発電設備は稼働できなくなってしまうおそれがあります。実際、東日本大震災の時には多くの発電所が稼働を停止。首都圏でも計画停電が実施されたりしました。

新電力を含む電力会社には、電気を安定して供給することが義務付けられています。発電所が被災してしまった場合、電気を安定的に供給するためにもまずは、発電所の復旧作業を行わなければなりません。

ただ復旧作業中の発電所では発電することができません。一方で電気を供給する義務もあるため、被災していない発電所をフル稼働したり、場合によっては他から電気を調達しなければならない場合もあります。

2013年の東日本大震災では地域間の周波数の違いなどから電力の地域間送電ができないこともありました。その反省から「電力広域的運営推進機関」が設立され、大規模災害時にも日本全体で安定した電力供給のために電気を融通しあえる体制になっています。

停電してしまった場合

停電のリスクはどの電力会社でも同じ

災害により電気関係の設備が損傷すると停電が起こります。このときの停電のリスクは、どの電力会社と契約していても同じです。地域電力会社と契約している家庭だけ電気が使えて、それ以外の会社と契約している家庭は停電している、ということは基本的には起こりません。

日常的な停電も災害時の停電も、一般的に原因は送電網のトラブルによる場合がほとんど。電柱が倒れてしまったり、風で飛ばされたものが送電線に巻き付いたりして、停電してしまうということなんですね。

この送電網は、電力会社が共通で利用しているもの。そのため、停電のリスクはどの電力会社でも同じなのです。

復旧のスピードも変わらない

送電網は、電力会社がそれぞれに管理しているものではありません。現在は地域電力会社の送配電部門が、すべての送電網を管理しています。

電力事業を詳しく見ると、発電部門・送配電部門・小売部門の3つに分かれています。東京電力では電力自由化を機に各部門を分社化。発電部門は「東京電力フュエル&パワー」、送配電部門は「東京電力パワーグリッド」、小売部門は「東京電力エナジーパートナー」といった具合です。

つまり、東京電力管内にある送電網は、東京電力パワーグリッドという会社が管理しているんですね。他の電力会社管内も同様に、それぞれの会社の送配電部門が管理しています。そして送電網を管理するときは、中立公平に管理しなければならないと、法律で定められているのです。

そのため、地域電力会社以外の新電力と契約している家庭だけ、停電からの復旧が遅くなるということはありません。

新電力は何をするの?

送電網の管理や復旧作業を行うのは地域電力会社。では、それ以外の電力会社(新電力)は何をするのでしょうか。

実は送電網のトラブルによる停電に対しては、新電力ができることはありません。各エリア内の送電網の復旧が終わるまでは、ただ待っておく以外にできることはないのが現状なのです。

ただし現在は地域電力会社の管理下にある送配電部門も、発送電分離により将来的には地域電力会社の管理下を離れます。つまり、現在の新電力と同じように「ただ待っておくだけ」しかできなくなるというわけです。

大規模災害時のその他のリスク

一度災害が起こると、通常では想定していなかったコストがかかることがあります。

例えば自社の発電設備が損傷してしまいしばらく発電できなくなった場合。発電できない間は、他社から電気を調達する必要があります。設備の点検・修理費用、電気の調達費用など、場合によってはコストが大きく膨らんでしまうこともあり得ます。

そうなってしまった場合、最終的には電力会社が事業継続できなくなる可能性も。これは電力会社に限った話ではありませんが、規模の小さな会社ほど事業継続できなくなる可能性は高いと言えるでしょう。

自然災害の多い日本

私たちが暮らしている日本は、実はとても災害が多い所。2016年の4月の熊本地震をはじめ、2011年の東日本大震災、2004年の新潟県中越地震、1995年の阪神淡路大震災といった大きな地震は、頻繁に起こっています。

また、梅雨の時期から秋にかけての集中豪雨や台風、最近は竜巻の発生なども耳にするようになりました。

災害の規模こそ大小さまざまですが、災害によるライフラインの寸断は私たちの暮らしにも大きく影響します。ライフラインのうち、水道やガスは日ごろの備えである程度は賄うことができるもの。水道はお風呂場に水をはっておいたり、飲用水を常備しておけばOK。ガスについても、カセットコンロがあれば、ある程度の調理などもできます。

一方の電気。自宅に太陽光発電設備や蓄電池、発電機などがあれば、一定期間はしのげるかもしれません。しかし、こういった設備はどこの家庭でも簡単に準備できるわけではありませんよね。そういった点からも、特に電気については少しでも早く復旧してもらいたいライフラインと言えるでしょう。

2020年以降は契約内容に要注意

2020年4月には、電力システム改革の第3段階である「法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保や電気の小売料金の全面自由化」というものが始まります。

ここで注意したいのは小売料金の全面自由化により、各社の料金体系が2020年以降どうなるかということ。例えば、契約書の内容によっては、普段は安い金額でも災害時には特別料金になるシステムなどもありえるかもしれません。

現状では、「電力・ガス取引等監視委員会」という組織が、法外な契約や料金がないかを監視してくれています。この規制も徐々に弱くなり自由競争に移行するはず。先ずは2020年4月以降の電力各社の動向に注意しましょう。