海外の事例イメージ
日本では2016年4月に始まった電力自由化。海外では以前からスタートしている国もあります。一足お先に電力自由化をスタートさせた国の事例から、日本の電力自由化の未来がどうなるのか、少し考えてみましょう。

1.アメリカの場合

United-States-of-America

1−1.3割の州で自由化、電力会社は3,000社

アメリカでは、1990年代前半から電力自由化がスタートしました。国家としてではなく州単位で進められており、現在は14の州とワシントンDCで実施されています。
電力会社数は3,000社ほどあり、電気とガスの両方を供給している会社も多いです。

1−2.アメリカの成功例と失敗例

20年以上前から電力自由化がスタートしているアメリカ。電力自由化が成功した州もあれば、失敗した州もあります。

電力自由化に成功したテキサス州

アメリカの中でも電力消費量が多いテキサス州。テキサス州では2002年から電力自由化がスタートしました。テキサス州における電力自由化が成功したポイントとして、以下の3点が挙げられています。

① 発送電分離を行った

電力自由化が始まり、大手電力会社は発電、送配電、小売を分割。これにより、大手電力会社のシェアが分割され、新規参入もしやすくなりました。発送電分離により、自由競争のための環境が整えられたというわけです。

② 価格水準を調整した

電気料金は常に一定というわけにはいきません。発電設備の新設やメンテナンスに費用がかかったり、発電に利用する燃料の価格が変動するためです。テキサス州では年2回、燃料価格の変動による電気の価格水準を調整。電気料金の安定化につながっています。

③ 既存電力会社に対する適度な規制を行った

電力自由化による自由競争を促進するため、既存の電力会社に対して規制を行いました。

電気料金の面からは、極端に安い電気料金を設定できないように、基準価格による販売のみを許可。電源についても、一定のシェアを超える分は売却を義務付けました。

このような施策が功を奏し、テキサス州の電力自由化は成功したと言われています。

電力自由化に失敗したカリフォルニア州

一方、電力自由化の失敗例として挙げられるのが、カリフォルニア州です。

カリフォルニア州では1998年から電力自由化がスタートし、多くの企業が参入しました。その2年後の2000年夏から2001年にかけて、カリフォルニアでは電力供給が不安定に。大規模な停電が発生する事態となったのです。

大規模停電が発生した背景

カリフォルニア州では電力自由化スタート後、大手電力会社が発電設備を売却。卸電力取引所からの電力調達を義務付けられました。さらに、自由化開始後の経過措置期間中で、電力会社は電気料金の値上げができないよう、規制されていたのです。

そのような状況の中、発電に必要な燃料価格が高騰。それに伴い、電気の卸価格も高値となりました。電力会社は高額な電気を購入しなければならない一方、規制により電気料金の値上げができないため、費用回収ができずに経営が困難になったのです。

発電する側も、経営困難に陥った大手電力会社に対し電気の販売を渋るように。そのため、カリフォルニア州全体が、電力不足に陥ってしまいました。その結果発生したのが、大規模な輪番停電です。東日本大震災のときに発生した計画停電と同じことが、カリフォルニアでも発生してしまったのです。

この後、カリフォルニア州での電力自由化はいったん中断。再開されたのは、2010年に入ってからです。現在は州内でも部分的な自由化にとどまっています。

1−3.電力会社では独自のサービスも

現在、電力自由化により競争が激化しているアメリカでは、各電力会社が様々なサービスを提供。その一つに、フリーパワー・デイというものがあります。

これは1週間のうち、選択した1日だけ電気料金が無料になる曜日を設定するもの。週末を選択するユーザーが多く、利用者にとってだけでなく、電力会社にとっても簡単に発電量を把握できるといったメリットがあります。

2.ヨーロッパの場合

ヨーロッパの国々でも、電力自由化は以前から既に行われています。

2−1.ドイツの場合

Germany
電力自由化が進むヨーロッパの中でも、注目されているのがドイツです。

従来、ドイツでは日本と同じように、地域ごとの電力会社が存在していました。そのドイツでは、1998年に電力自由化がスタート。現在は既存の電力会社の他、1,000社以上の電力会社が存在し、1万種類以上もの料金プランがあります。

選択肢が多いということは良いことのように見えますが、現在のドイツは選択肢が多すぎるという状況。こんなにあると、私たちも選ぶのに困ってしまいますよね。

こんなとき頼りになるのが比較サイトですが、ドイツの比較サイトは中立性を失っている状態。比較サイトを通じて電力会社に申込むと、サイトの運営会社には紹介料が入ります。その紹介料が高額であるため、実際にはあり得ないような広告を出しているサイトもあるんです。

さらに、ドイツでは新電力に対する不信感も。新電力の中には、安い電気料金を提供する代わりに、多額の初期費用を徴収するような企業もありました。こういった企業は順調に顧客数を増やしていましたが、最終的には倒産しています。不祥事が続く新電力に対する信頼はなくなり、現在は従来の電力会社に回帰する動きもあるのです。

2−2.イギリスの場合

イギリス国旗
イギリスでは、1999年から一般家庭向けの電力自由化がスタート。従来からの電力会社は分割され、さらに50社程度が新規参入しました。

自由化開始当初、イギリスでは発電した電気を強制的に集めて販売する「強制プール制」を取っていました。この制度は大手電力会社による市場操作が簡単にできるような、公正とはいえない市場だったのです。そのため、電気料金は高止まり状態に。電力自由化の目的だった「価格を下げる」ことができず、この制度は廃止されました。

強制プール制廃止後、2002年にNETA、2005年にはBETTAと呼ばれる新電力制度を導入。NETA導入後は、強制プール制だったころに比べて電気料金が40%下がりました。

現在はイギリスの他、ドイツやフランス、スペインといった外国企業を含めた6社が、イギリス国内の95%のシェアを持っています。

いったん下がった電気料金も、現在は2004年と比べるとおよそ2倍に。イギリスの電気料金は、その3分の2を発電に関するコストが占めており、燃料の高騰が電気料金に大きく影響しています。

3.日本ではこの先どうなる?

ここまで3か国の電力自由化の状況を見てきましたが、日本では今後、どういったことが考えられるのでしょうか。

電気料金はどうなる?

先に見た事例のうち、アメリカのテキサス州では国内平均を下回る電気料金となっていました。しかし、その他の地域や国では電気料金は値上がり傾向です。

そもそも、電気料金は燃料価格にも大きく左右されます。特に、資源が乏しく燃料を輸入に頼るような国では、それが顕著に。実は日本もこれに当てはまります。

燃料価格に左右されないためには、自国のエネルギー自給率を上げることが必要。日本のように資源が少ない国の場合は、再生可能エネルギーによる発電を増やすか、原子力発電を利用するなどで対応するしかありません。

しかし、再生可能エネルギーによる発電も、設備投資には多額の費用がかかります。原子力発電も、安全対策や再稼働にはまだまだ問題が多い状態。電気代を安くできるかどうかは、まだまだ不透明な部分が多いと言えるでしょう。

倒産の可能性もゼロではない

電力自由化により多くの企業が参入したのは、他の国でも同様でした。しかし、どの国でも倒産は実際に起こっています。日本でも、大口の需要家に供給していた新電力が最近倒産して話題になりました。

日本では契約先が倒産した場合のセーフティネットも整備されています。また、事業継続が難しくなった場合は、事前に顧客に通知すると決められています。このため、ある日突然契約先が倒産する! という心配はなし。その点では、安心して希望する電力会社と契約できます。

状況によって賢く乗り換えよう

電力自由化には失敗例もあるため、本当に大丈夫なのか心配に思う人も少なくないでしょう。電力会社を自由に選べるということは、自分自身の状況に応じて乗り換えられるということ。ずっと同じ会社・プランを利用することは楽ですが、昔、選んだプランが現在もピッタリかというと、そうではないですよね。

生活スタイルや家族の変化に合わせて、また、社会の状況の変化に合わせて上手に乗り換えるのが、電気をお得に使うコツです。もちろん、契約期間など縛りがあるプランもあるので、その点には注意が必要。いざというときに慌てずに済むよう、普段から電気に関する情報にはアンテナを張っておくといいですね。

新電力の選び方についてはこちらを参考に
【決定版】新電力の選び方